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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)5419号 判決 1979年9月17日

原告 藤田五郎

被告 国 外一名

主文

原告の被告両名に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「(一)被告両名は、原告に対し、各自金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五三年六月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(二)被告らは、朝雲新聞社発行の「朝雲」及び社団法人防衛衛生協会発行の雑誌「防衛衛生」に、別紙記載の謝罪広告を、縦六・五センチメートル、横五・二センチメートルの枠組で、各一回掲載せよ。(三)訴訟費用は、被告両名の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告国指定代理人は、主文同旨の判決並びに原告勝訴の場合につき担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、被告水上訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二請求の原因等

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因等として、次のとおり述べた。

一  当事者の地位

原告は、昭和四九年一二月当時、被告国の管理、運営する陸上自衛隊衛生学校に勤務し、教育部長の職にあつた者であり、被告水上は、当時、同学校の学校長で、原告に対して懲戒権を有する国家公務員であつたものである。

二  被告水上の行為

被告水上は、陸上幕僚長の指示に基づき、原告に対し、上級者である原告の下級者である塚田和男一尉に対する昭和四八年一〇月ころの指導不適切を理由として、昭和四九年一二月九日に訓戒処分を、同月二六日に口頭による注意を行つた。しかしながら、原告には右にいう指導不適切なる事実は全く存しないものであり、右陸上幕僚長の指示は、陸上幕僚監部において、昭和四九年当時、人事異動のため幹部のポストを用意する必要に迫られ、陸上自衛隊富士学校勤務の医官であつた小野寺重季(以下「小野寺」という。)を昭和四九年末をもつて勧奨退職させることを企図し、陸上幕僚監部衛生監福田圀如が同年九月ころ小野寺に退職を勧告した際、「自分が退職しなければならないのであれば、原告が昭和四八年一〇月ころ塚田和男一尉に対して手拳で殴打した暴力行為をも処分せよ。」との小野寺の要求に従い、小野寺に対し原告の処分を約したことに基づくものであつた。

三  被告両名の責任

被告水上は、陸上自衛隊衛生学校長として有する部下に対する懲戒権に基づき、前記訓戒処分及び口頭による注意を行つたものであるが、かかる場合、被告水上としては、被懲戒者の人権に配慮し、原告に対して懲戒処分に付すべき理由を告知し、弁解を聴取するという適正な手続を踏み、内規に従つて懲戒権を行使すべきであるところ、被告水上は、右適正手続を踏まず、誤つた事実認定に基づき訓戒処分を行い、また、内規に根拠を有しない口頭による注意を行つたものであるから、右違法な訓戒処分及び口頭による注意を受けたことにより原告が被つた損害を賠償すべき義務があり、また、右訓戒処分及び口頭による注意は、被告国の公権力の行使に当たる公務員である被告水上が、その職務を行うについてなしたものであるから、被告国は、国家賠償法第一条の規定に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

四  損害

原告は、被告水上の行つた右違法な訓戒処分及び口頭による注意により、医学界における著名な医師としての、また、陸上自衛隊衛生学校教育部長としての名誉及び名誉感情を著しく毀損されたものであり、これに対する慰謝料としては少なくとも金一、〇〇〇万円が相当である。

五  よつて、原告は、被告両名に対し、各自金一、〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五三年六月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに原告の名誉を回復するための処分として、陸上自衛隊で広く購読されている朝雲新聞社発行の「朝雲」及び社団法人防衛衛生協会発行の雑誌「防衛衛生」に、別紙記載の謝罪広告を、縦六・五センチメートル、横五・二センチメートルの枠組で各一回掲載することを求める。

六  被告両名の消滅時効の主張に対する原告の主張

小野寺は、原告が懲戒処分に付されるべき何らの行為を行つていないことを知りながら、自己に対する退職の勧告を拒否するために、前記のとおり、あえて原告を誣告し、陸上幕僚監部に対し原告の処分を要求したものであり、小野寺の右行為と被告水上の前記不法行為とは、原告の懲戒処分に関連して共同して展開されたものであるから、共同不法行為となり、右両名は原告に対し連帯して損害を賠償する責任があるところ、原告は、小野寺に対し、昭和五二年一二月六日到達の書面をもつて、小野寺の右行為により原告が被つた精神的苦痛に対し原告の名誉を回復するための措置をとること及び慰謝料の支払を請求した。しかして、右請求は被告両名に対してもその効力を生ずるものであるところ(民法第四三四条)、原告は、右催告の日から六か月内である昭和五三年六月六日、被告両名に対して本訴を提起したのであるから、原告の被告両名に対する本訴請求権の消滅時効は中断された。

第三被告国の答弁等

被告国指定代理人は、請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因一の事実は、認める。

二  請求の原因二の事実のうち、被告水上が、陸上衛生学校長として、原告に対し、上級者である原告の下級者である塚田和男一尉に対する昭和四八年一〇月ころの指導不適切を理由として、昭和四九年一二月二六日口頭による注意を行つたこと、小野寺が昭和四九年当時陸上自衛隊富士学校勤務の医官であつたこと、同年九月ころ、陸上幕僚監部衛生監福田圀如が小野寺に対して退職を勧奨したことは認めるが、その余は否認する。被告水上は、原告主張の日に原告に対して訓戒を行おうとしたが、原告が訓戒書の受領を拒否したため、これを交付しなかつた。したがつて、原告に対する訓戒は効力を生じていない(昭和三一年防衛庁訓令第三三号第三条)。なお、口頭による注意は、上級者が下級者に服務上一般に与える単なる注意、指導であつて、何ら懲戒的意味を持つものではない。

三  請求の原因三ないし五の事実及び主張は、争う。

四  被告国の主張

1  消滅時効の主張

仮に、被告国の原告に対する前記損害賠償責任が認められるとしても、被告水上が原告に対する訓戒処分をしたと主張する昭和四九年一二月九日から三年を経過した後の日であり、また、同じく口頭による注意をした同月二六日から三年を経過した日である昭和五二年一二月二六日の経過とともに、原告の被告国に対する損害賠償請求権は、時効によつて消滅したものというべきである。

2  原告の時効中断の主張に対する被告国の主張

原告が、小野寺に対し、昭和五二年一二月六日到達の書面により原告主張の請求をした事実は知らない。仮に、右事実が認められるとしても、原告主張に係る小野寺の行為と被告水上の行為とはそれぞれ独立して原告の名誉を毀損するものであつて共同不法行為とならず、また、仮に、右両行為が共同不法行為となつたとしても、共同不法行為者の各損害賠償債務は不真正連帯債務であつて民法第四三四条の規定の適用はないので、原告の小野寺に対する請求は、被告国に対しては何ら効力を生じない。

第四被告水上の答弁等

被告水上訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求の原因一の事実は、認める。

二  請求の原因二の事実のうち、被告水上が、陸上衛生学校長として、原告に対し、上級者である原告の下級者である塚田和男一尉に対する昭和四八年一〇月ころの指導不適切を理由として、昭和四九年一二月二六日口頭による注意を行つたこと、小野寺が昭和四九年当時陸上自衛隊富士学校勤務の医官であつたこと、同年九月ころ、陸上幕僚監部衛生監福田圀如が小野寺に対して退職を勧奨したことは認めるが、昭和四九年当時、陸上幕僚監部において、人事異動のため幹部のポストを用意する必要に迫られていたことは知らず、その余の事実は否認する。被告水上は、原告主張の日に原告に対して訓戒を行おうとしたが、原告が訓戒書の受領を拒否したため、これを交付しなかつた。したがつて、原告に対する訓戒は効力を生じていない(昭和三一年防衛庁訓令第三三号第三条)。

三  請求の原因三ないし五の事実及び主張は、争う。

四  被告水上の主張

1  仮に、請求の原因事実が全て認められるとしても、原告主張に係る被告水上の行為は、いずれも、公権力の行使に当たる公務員である被告水上がその職務行為としてなしたものであるから、被告水上個人は、同行為により原告に生じた損害につき賠償責任を負わない。

2  消滅時効の主張

仮に、被告水上に対する前記損害賠償責任が認められるとしても、被告水上が原告に対する訓戒処分をしたと主張する昭和四九年一二月九日から三年を経過した後の日であり、また、同じく口頭による注意をした同月二六日から三年を経過した日である昭和五二年一二月二六日の経過とともに、原告の被告水上に対する損害賠償請求権は、時効によつて消滅したものというべきである。

3  原告の時効中断の主張に対する被告水上の主張

原告が、小野寺に対し、昭和五二年一二月六日到達の書面により原告主張の請求をした事実は知らない。仮に、右事実が認められるとしても、原告主張に係る小野寺の行為と被告水上の行為とはそれぞれ独立して原告の名誉を毀損するものであつて共同不法行為とならず、また、仮に、右両行為が共同不法行為となつたとしても、共同不法行為者の各損害賠償債務は不真正連帯債務であつて民法第四三四条の規定の適用はないので、原告の小野寺に対する請求は、被告水上に対しては何らの効力も生じない。

第五証拠関係<省略>

理由

一  原告の本訴請求は、被告水上が原告に対して昭和四九年一二月九日にしたとされる訓戒処分及び同月二六日にした口頭による注意をもつて不法行為に該当するものとし、これにより原告が被つた精神上の損害の賠償及び侵害された名誉の回復措置を被告両名に対し求めるものであることは、その主張自体に徴し明らかというべきところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、被告水上の右各行為の行われた時点で名誉の侵害という精神上の損害を被つたことを知つたものと推認される。

してみれば、原告の被告両名に対する本訴損害賠償請求権は、前示各不法行為がなされた日である昭和四九年一二月九日及び同月二六日から三年を経過した日の満了により、時効によつて消滅したものというべきである(民法第七二四条及び国家賠償法第四条)ところ、本件訴訟が既に右三年の時効期間を経過した後の昭和五三年六月六日に提起されたことは、記録上明らかである。

二  原告は、被告水上の右行為は、原告が何ら懲戒に付されるべき行為を行つていないことを知りながら陸上幕僚監部に対し原告の処分を要求した小野寺の行為と共同不法行為となるところ、原告は、小野寺に対し昭和五二年一二月六日到達の書面をもつて小野寺の右行為につき不法行為責任の履行を請求しており、連帯債務者の一人である小野寺に対してした右請求は、被告両名に対してもその効力を生ずるものであり(民法第四三四条)、右催告から六か月内である昭和五三年六月六日になされた本訴提起により、原告の被告両名に対する本訴請求権の消滅時効は中断した旨主張する。なるほど、成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一、二によれば、原告主張の小野寺に対する催告の事実が認められるが、仮に、被告水上の前記各行為と小野寺の行為とが共同不法行為に該当するとしても、共同不法行為者間には連帯債務の予定する緊密な主観的共同関係が認められないから、共同不法行為者の各損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務であり、民法第七一九条に「各自連帯ニテ其賠償ノ責ニ任ス」とあるのは、各共同不法行為者が全部について賠償債務を負うものであることを示したものにすぎないと解するのが相当である。したがつて、債権を満足させる事由以外の債務者の一人について生じた事由は、他の債務者に効力を及ぼさないものというべきであり、連帯債務に関する民法第四三四条の規定の適用はないものと解するのが相当であるから、原告の小野寺に対する右請求は、被告両名に対しては何ら効力を生じないものというべきであり、右請求の効力が被告両名に対しても及ぶことを前提とする原告の時効中断の主張は失当といわざるをえない。

三  以上説示のとおりであるから、原告の被告両名に対する本訴請求権は時効により消滅したものというべく、したがつて本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものというほかない。

よつて、原告の被告両名に対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武居二郎 魚住庸夫 川口代志子)

別紙<省略>

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